相続が争いにならないために
税理士・行政書士をしていて、相続の諸手続きの依頼を受け、依頼者のために働かせていただいているが、一番残念なことは、相続人がもめてしまい、相続までは仲良くしていたのに、相続のために収拾不能になり、以後音信不通になってしまうことである。
そんな残念な結果にならないためにどうすればよいのか?逆に言えば、どうすればもめない相続をすることができるのか?
一昔前までは、遺言があればもめずに相続ができるというような広告がよくあったように思うが、実際には、遺言は万能ではない。それどころか、遺言があるためにもめるということもよくある。
なぜかと言うと、遺言が存在するということは、基本的には民法の相続分とは違う形で相続させたいと相続人が望んだわけで、民法の相続分とは違うということが、もめる要因になる可能性があるからだ。
ましてや、推定相続人が推定被相続人をして書かしめたような遺言では、もめるのは必定と言える。
他方、相続人が真に望んだ遺言の場合はもめる可能性は下がるように思う。例え、法定の相続分通りでなかったとしても。
やはり、もめない相続のために必要なことは、基本に立ち返り、相続人の確定を確実にし、財産目録の調製を正確にすることに尽きるように思う。あとどう分けるかは、基本は法定の相続分通り、あるいは被相続人に対する貢献を加味して(と言ってもそこはあまり主張しないほうが良い場合もあるが…。)譲り合いの心を持って分けられれば、もめるはずがないのだが…。
まず、相続人の確定は、母あるいは父を異にする兄弟姉妹がいるような場合は複雑だが、財産の確定に比してはまだやさしいように思う。
よりややこしいのは、相続財産の計算だ。例えば、タンス預金があるような場合(お年を召した方は比較的多くのケースでタンスに現金を置いているのを見聞きする。)、同居の相続人が、相続財産に入れずに自分の財産に入れてしまうとか、預金と通帳を持っていた推定相続人が、相続開始の直前に多額の預金をおろし、「ねこばば」をこころみるとか、財産目録を調製せずに、ほかの相続人にこれで納得しろと言うような交渉をするとか、要は相続人のうちの誰かが「うまいこと」やってやろうとすると、それがばれたとき取り返しのつかない信用の失墜につながり、以後音信不通状態になる。あるいはこういうケースもあった。相続人の1人が正確な財産目録を調製しているにもかかわらず、他の相続人がこれを信用せず、文句だけを言う。財産目録の調製は、相続人の誰かがすればよいというものではなく、相続人ならば、相続財産を調査する権限を持っているのであるから、ほかの相続人に頼らず、自分でも調査するよう努めなければならない。みなが作った財産目録を持ち寄って、点検しあうのがよいと思う。
以上がもめない秘訣だが、相続人の一人一人が相続のルールを理解し、よこしまな気持ちを捨て、正しい財産目録を調製することが肝要である。