相続税の調査の連絡があったら読む想定問答集
本日は相続税の調査について。
相続税の調査についても、基本的には、事務所への税務署からの電話から始まる。
日程の調整を税務署と依頼人の間でして、決まれば、当日、立ち会う。当日の午前中は相続人へのインタビューから始まる。税務職員のインタビューは雑談ぽい、ときには笑いがあったりする。にこやかに、しかし、意外と核心的な問題を含んだ質問なのだ。「お父様の最期はどのようなご様子であったか?」「ご趣味は何であったか?」「生前にお父様から沢山の贈与を受けたことはないか?」などなど。
それぞれの質問において、税務署が何を確かめたいのか?知らなければ、後で、取り返しのつかないことになる。
1.被相続人の最期のご様子
推定相続人(以下子という。)の割と多い心配事の中に、推定被相続人(以下親という。)が亡くなると親名義の預金をおろせなくなり、入院費用やお葬式の費用を払えないのではないか?というものがある。そこで、子は親の生前、お亡くなりになる直前に多額の預金を毎日、限度額の上限いっぱい何週間かかけて数百万円から時に数千万円おろしているということがある。
このときに「親の最期は、1か月前から入院中で動くことができなかった。最期は食事もできず点滴だけでした。」と答えたとすると最期の直前数週間の間の資金移動は子がした行為であると強く推認される。すくなくとも税務署はそう考える。
このとき、最期の直前数週間におろした数百万円あるいは数千万円の現金を申告していれば、問題はないが、例えば子の預金に入金し、申告していないと申告漏れあるいは故意に隠したと言われかねない。
そうなると重加算税の可能性もでてくる。
税務署はあらかじめ被相続人あるいは相続人あるいは相続人の身内の預金について、事前に銀行に照会しているので、情報をあらかじめ持っているのだ。
ずるいと言えばずるいが、銀行は税理士には情報を出してくれないが、税務署にはダダもれであることを認識しなければいけない。
2.被相続人の趣味
例えば「相続人の趣味はゴルフでした。」と答えたとすると、お昼から「ゴルフ会員権はなかったか?」となる。
税務署は何も本当に相続人の趣味を知りたいわけではない…。
3.生前に被相続人に多額の贈与を受けたことはないか?
その質問の意味は、贈与税の申告がもれていることを指摘したいわけではない。しかし、多くの相続人は、生前に父から贈与を受けていたと答えると贈与税の申告がなされていないことを指摘されるのではないかと考え、「ない。」と答える。多くの相続人と書いたが私の経験ではほぼ100%だ。
この質問の目的は「ない。」と答えさせることにある。しかし、ほぼ皆「ない。」と答えてしまう。悪魔の質問だ。だって、贈与税が怖いもの。
例えば、父から生前亡くなる10年以上前、数千万円分の金塊を「これをお前に預けておく。持っておけ、必要なら使っても構わない。」と渡されたとする。これを父の文言通り、受け止めれば預けられただけなので、所有権は父のままとも解釈できるが、実態は自由に処分しても構わないと言っているわけだから贈与とも解釈できる。
ここで、その翌年贈与税の申告をしていれば、何の問題もないが(もっとも贈与税の額も数千万円になることが予想されるが…)、預かっただけだと考え、贈与税の申告をしていなかった場合、相続人はこの質問に対し「贈与されていない。」と答えたくなる。だって、贈与税の申告をしていないから。
そして、この金塊を相続財産として申告していれば、問題ないが、相続税の申告の段階では、考えが変わって、この金塊は10年以上前に父からもらったものだと解釈し、申告しなかったとする。
ダブルスタンダードだが、人というのは、自分の都合のいいように解釈する傾向がある。
そして「税務署に父からの多額の贈与はない。」と答えてしまった後、家の屋根裏などから数千万円の金塊が見つかった場合、「この金塊は10年以上前に父から私が贈与によってもらったものだ、だから相続財産には含まれない。」と言っても、すでに「多額の贈与はない。」と答えちゃっているので、税務署は認めない。相続財産だとされる。
非常にややこしい話だが、そのための布石、なんか囲碁か将棋をしているような話だが、先の先の一手のための質問なのだ。
ここでもし、相続人がこの質問に対し、「実は10年以上前に数千万円分の金塊を父からもらった。しかし、贈与税の申告をし忘れた。」と答えたとすると事態は変わる。
多分税務署の職員は、不機嫌に「贈与税の申告をしてくださいね。」というぐらいだ。
しかし、税理士としては更正決定の期間は7年なので、税務署が決定することができないことを知っている。もちろん微笑で無言だ。ということになる。
そもそも、子が親からもらったものはないか?と尋ねるこの質問は愚問だと思う。税務署にとっては愚問ではない、有効な質問だが…。そもそも子は親から育てられたわけだから、小さいときから大学卒業あるいは大学院卒業ぐらいまでは親の世話になっているわけで、その年ぐらいまでは親からもらったものばかりだ。
しかし、そう答えると税務署は「先生それは生活費ですよね。」と強い口調で言ってくる。相続税法上、生活費は非課税だ。(相続税法21条の3)。
さらにしかし、税務署のお尋ねは「親からの多額の贈与はなかったか?」というものなので、生活費の贈与も贈与だ。だって相続税法が贈与だと言っている。相続人がその贈与は非課税だから答えなくてよいかどうかを判断するのは無理だ。だって、生活費の贈与も贈与だもの。
つまり、この質問に対する正しい答えはいつも「当然あります。だって親に育てていただいたのだから。」だと思うのだが…。
それでも贈与税が怖いか…?