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私小説家の経費

経費とは

 事業を始めたばかりの店主さんあるいは社長から経費について尋ねられることがあるが、私は事業のための経費かあるいは個人的支出かを説明するときに、私小説家のことをたとえて話をすることがある。これは多分、大学院にいたときに租税法の講義で持ち出された例だったように思う。

 

 日本の小説家は自分に起こった出来事を題材として、小説を書くことがある。というか比較的多い。ある意味では私生活を書いて、生活の糧を得ているわけだ。

 

 例えば自分の恋愛体験を題材として小説を書く場合、どこまでが経費であるか?万年筆、原稿用紙、恋愛中に使った車、自分の家、別荘、デートのために使った飲食店の費用、洋服代、宿泊のために使ったホテル代、どこまでが経費でどこまでが私生活なのか?難しいような簡単なような。

 

 私は、申告納税制度の本旨から言って、納税義務者が合理的に経費だと説明できるものは経費として申告してよいものと考えている。

 

 脱税事件が発生すると、「税理士に任せているから分からない。」と店主さんあるいは社長さんが言い訳しているのを見るが、基本的には、税務の代理人ではなく本人がどう考えたかが、大事なことだ。

 

 板東英二さんの所得の申告もれが指摘されたときに、「カツラ」が経費になるかどうか?ということが報道されたことがあったように記憶しているが、経費になるかどうかは「カツラ」とその芸能人の事業とがどういう関係にあるかを本人が説明できるかに尽きる。というのは、税理士はその芸能人が「カツラ」をいつ何役をしたときに被っていたのか詳細には知らない。知らないが、本人がそういう記録を持って来たから、あるいは領収書や請求書を提出してきたから、事業に対する使用割合を聞き取りして経費処理しているにすぎないので、詳細は本人のほうが分かっているからだ。

 

 社長の中にはまことに上手に事業との関連性を説明できる人もいるし、税務署に言われると説明する前に諦めてしまう人もいる。申告納税制度の本旨からいうと自分が経費だと思うなら、その通り主張してみて、税務署の考えも聞く。その上で納得できれば、修正に応じれば良いし、納得できなければ裁判しても戦えば良い。要はその覚悟があるかどうかだ。