相続財産の評価額
財産目録に記載する財産は確定したとして、その評価額をどうしたらよいか?ということもよく尋ねられる質問だ。
相続税の申告ならば、一応、財産評価基本通達にそって計算すれば、税務署は文句がないはずなので、事は比較的単純だ。それでも、税務署が通達評価にクレームをつけ、裁判になることもある。
より、難しいのは、遺産分割のための評価額だ。
「え、違うの?」という声が聞こえそうだが、当然、税務署に出す相続財産の評価額と相続人間で遺産分割の段階で使う評価額は、違うのだ。
私は、いつも、入れ札をお勧めしている。
例えば、相続人が兄弟2人、相続財産が普通預金と土地と家屋のみの場合を考える。
預金についてはだれが考えても評価額は、銀行が払い戻してもらえる金額、つまり、通帳に記載された金額だ。経過利息はこれだけ利率が低ければ、考慮する価値もない。この点、疑問はないものと思われる。仮に以下普通預金の残高は100万円であるとして話をすすめる。
問題なのは不動産だ。不動産の評価額について1番入手しやすい評価額は固定資産の評価額だ。だが、固定資産税の評価額は固定資産税を計算するための評価額であって、必ずしも、遺産分割協議に固定資産税の評価額を使わなければいけないという根拠はない。
そこで私は入れ札を推奨している。
この土地建物の固定資産税の評価額が合わせて1億円であったとすると、固定資産税の評価額を使って遺産分割協議をすすめると、この土地建物を相続した相続人が、もう一人の相続人に5,000万円分の代償を支払い、普通預金を半分ずつする。したがって、土地建物を取得した相続人は土地建物と50万円の普通預金を取得し5,000万円分の代償を支払う。多分、代償金を支払う。もう一方の相続人は普通預金50万円と代償金5,000万円を取得するという計算になる。
が、問題は上記計算に兄弟のどちらか一方でも不服の場合だ。
そこで入れ札だ。入れ札では、相続人が自分で不動産の価値を考える。考え方は、自分が相続して、自分が住むとしたらいくらなら買うか?賃貸に出すとしたら賃料はいくらくらい入金されるか?売るとしたらいくらくらいなら売ることができるか?等々を考え自分で評価額を決めるのだ。そして、決まったら、入札する。兄が7,000万円の評価、弟が10万円で入札したとしたら、この不動産は兄が相続することになる。そして兄は弟に3,500万円の代償金を支払うことになる。したがって、兄は50万円分の普通預金と土地建物を相続し、3,500万円の代償金を支払う。弟は50万円分の普通預金と、3,500万円の代償金を取得する。
これが、もっとも合理的かつ公平な解決策だと私は考えるが、30年以上この仕事をしてきて、一度も採用されたことはない。
理由は、以下の通りと推測している。
- まずこの土地建物に住むとしていくらなら買うかと言われても、別で住んでいるし、分からない。
- 貸すならと言われても、貸したこともないし、修繕しないといけないかもしれない、いくら入金されるかも分からない。
- 売ると言われても、不動産を売った経験もないし、建物を取り壊さなければいけないかもしれない、いくらで売ることが可能か想像もできない。
- そもそも固定資産税の評価額が1億円の物件を兄が7,000万円で取得できることが気に食わない。
- 身内で入札って、仰々しくて嫌だ。なんか、他人行儀である。
で、結局、固定資産税の評価額か相続税の評価額で決着ということが多い。
固定資産税の評価額にも相続税の評価額にも次のような利点もある。
一般に不動産を取得する相続人は、現金預金を取得する相続人に比して不利だ。だって、いつ換金されるか分からないし、固定資産税はかかるし、換金に費用を要する場合も多いから。その点、固定資産税の評価額も相続税の評価額も、実際の売買価額よりはかなり低目に評価されている。
一巡して固定資産税の評価額に戻ってくるというやり方は、一見、無駄のようで、無駄ではない。なぜなら、相続人に不動産評価の難しさまた不確実性を理解してもらえるからだ。そしたら、固定資産税の評価額で分割協議を進めることに異論を唱える人は少なくなるように感じている。