遺産分割協議書の作成時点
もう15~16年前の話。前職の事務所を辞めて行政書士事務所を開業してすぐのことだったと記憶している。
私は前職の関係である相続の仕事を請け負い、預金の名義変更に銀行へ出向いていた。預金名義の変更手続きを請け負ったのはこのときがはじめてだったような気がする。
銀行には相続手続依頼書という、預金の名義を変更したり払い戻しを依頼する所定の様式があるのだが、私はそのことを知らなかった。法務局や陸運局と同様、遺産分割協議書と戸籍謄本、印鑑証明があればなんとかなると思っていた。
銀行の対応してくれた行員も若手の方だった。銀行としてはその時の預金残高をどのように分配するかを知りたかったのだが、私の作った遺産分割協議書は相続開始時点の財産について記載していた。そこで、その後引き出した葬式費用や病院への入院費用の支払いまた、預金利息分その時点の残高との間に誤差が生じていて、計算をしないとすぐには分かりにくい形となっていた。
私としては、役所で通用する遺産分割協議書が銀行では、どうも通用しにくい話がかみ合っていない感じがした。
今から思えば要は、遺産分割協議書の作成時点の問題なのだ。
税理士事務所に勤めていた私からすれば、遺産分割協議書は相続開始時点で作るに決まっていると思い込んでいたが、行員は今の時点の預金の配分についての話をしてもらわないと困るという、埋めようのない認識の違いがあったのだ。
あとから調べて分かったことだが、遺産分割協議書の作成時点の問題に関しては、遺産分割協議時説と相続開始時説がある。通説は遺産分割協議時説らしい。税務署は相続開始時説だ。
司法書士さんや行政書士さんとこのことについて、議論するが、どうも遺産分割協議時説だけでよいのではないかと考えていらっしゃる先生が多いように思う。
それは、「要は財産の名義を変えればいいのだから、その時点の財産について協議したほうが分かりやすい。」また、「司法書士さんの作る遺産分割協議書は法務局提出用なので多くの場合両説とも差はない。」ということからだろうか。
相続税の申告が必要な依頼者としてはどこにでも通用する遺産分割協議書をあれば助かる。
行政書士さんにはどちらの説にも対応できるようにして頂けると、税理士としては助かる。といううかクライアントが助かる。