まさかそんな手が…。
相談者:「私は60歳で会社経営をしていますが、相続税対策として孫10人に月50万円ずつ孫名義で預金を10年間合計6億円してきました。贈与税の申告はしていません。今後も預金をし続けるつもりですが、私の死後この預金は相続財産となり、相続税が課税されますか?」
私:「民法上贈与契約は渡す人ともらう人の意思の合致が必要です。(民法549条)。お孫さんはこのことをご存じですか?」
相談者:「いえ、孫には内緒で私がしていることです。」
私:「では、贈与契約は成立していないので、その6億円は今も社長の所有物と言うことです。なので、万一、相続が開始すれば名義預金として相続財産にカウントされるものと思われます。」
相談者:「そうですか。残念です。でも、もう少し教えていただいてもよろしいでしょうか?」
私:「私でお役に立つ事であれば何なりとおっしゃってください。」
相談者:「私としては贈与の意思があります。孫は知りませんが、贈与契約書も作成しています。私が孫の代理人となって署名実印を押しています。この贈与の意思を私の死後、孫が追認しても贈与になりませんか?」
私:「つまり社長が受贈者の無権代理人(民法113条①項)となって契約書を作成され、その後お孫さんがその無権代理を追認するということですか?」
相談者:「そうです。」
私:「かなり悪質ですね。」
相談者:「はい。」
私:「しかし民法113条②項では、追認は相手方つまり社長にしなければ、追認を社長に主張することができないと読めますので、死んで存在しない人に追認するというのは無理なのではないでしょうか?」
相談者:「そうですか。残念です。では、今、孫が追認すればどうでしょうか?」
私:「なるほど、追認はできますが、贈与税の申告が必要です。お任せいただけますか?」
相談者:「いえ、孫が贈与を追認するのは10年前にした贈与計6000万円についてです。」
私:「贈与税の決定処分は7年を超えてすることはできませんものね。(国税通則法70条5項)。」
相談者「そうです。」
私:「ところで、預金通帳はどなたがもっていますか?」
相談者:「私の子たちつまり孫たちの親が持っています。もちろん、私の意思は知っています。」
私:「今、追認すれば、今現在贈与があったものと税務署は解釈するように考えますが…。」
相談者:「そんなことはないでしょう。だって民法116条は、追認の効力について、契約のときにさかのぼる旨規定していますよ。」
私:「確かにそうですね。しかし、民法116条後段はただし第3者の権利を害することはできないと規定しています。つまり、追認の効力は第3者には対抗できないでしょう。すこし案件は違いますが不動産の場合、税務上、贈与の時期は契約のときではなく登記完了時点とされていますし、認められないのではないでしょうか?」
相談者:「今日のところは了解です。また来ます。」
私:「いつでもどうぞ。」